今の私の最大のテーマは、 世界に誇れる日本発の新産業をつくること、 その新産業に適した新しい組織と手段をつくること、 この二つです。
林 要 GROOVE X株式会社 | 代表取締役
荒木 泰晴 株式会社 エンベックスエデュケーション | 代表取締役
林:自動車会社に十数年、その後通信会社に数年と、いわば日本の時価総額で一時期1位2位になっていた2つの会社で仕事をさせていただく機会に恵まれました。その過程で、今までの日本企業の強みをある程度、理解したつもりでいます。
ただ、これから未来に向かって進んで行くことを考えると、やはり何か変化が必要だな、と感じています。
当然、従来のやり方で成果を出してきた企業や産業にはその良さがあります。ですが、その企業や産業が過去に飛躍したきっかけとなった当時の成功事例は、世界中で研究され、模倣され、アドバンテージが減ってきています。そういった中で、一時期日本が世界のなかでも輝いていた時代をもう一度狙うのなら、やはり従来の延長では難しい部分があるのではないかと思っています。
では従来の延長ではない、日本の輝ける未来は何なんだろうと考える中で、今の私たちのやっている新産業、いや、まだ市場に出ていないので、将来は新産業になるかもしれない新しい事業と、それを生みだすための新しい組織、その二つをゼロからつくる事に今、チャレンジしているところです。
そんな私の最大のテーマは、世界に誇れる日本発の新産業をつくること、およびその新産業に適した新しい組織と手段をつくること、この二つです。
私の行き着いた仮説は、
人は使命を持つのが一番幸せなんじゃないかと
荒木:なるほど、あえて挑戦する必要がないのに、挑戦していく。
もちろんまわりからの、何か新しいものを生み出してほしいという社会的期待もあると思います。
ですが、なによりも、林さん個人が持っていらっしゃる使命感がすごくカッコいいなと思います。
林:使命感って何だろうと考える過程で、結局幸せってなんだろうという問題に行き着いたんです。
みんな幸せになりたい。だから幸せになる方法やその定義をいろいろと私たちは考えるわけです。
労働時間を短くすることが幸せだと定義する人、お金がたくさん稼げることが幸せだと定義する人・・・。
私の行き着いた仮説は、人は使命を持つのが一番幸せなんじゃないかと思ったんです。
何故かというと、例えばお金をたくさん持ちたいのは、お金の先にある何かを想像して持ちたいと言っているわけで、お金そのものには 正直 何の意味も無いわけです。
お金って、みんなが価値があると信じるているから、効力がある、ファンタジーであって、お金に、みんなが価値がないと信じた瞬間に、単なる紙切れになるという。お金の先にある何かを想像してるんですけど、そういったものをどれだけ手にいれても、人って飽きるんですよね、おそらく。
どこまで快適になっても飽きるし、どこまで楽をしても、もっと楽をしたがる。
で、快適で 楽の先になにがあるかというと、多分、生きがいがなくなる世界が待っているわけです。
そのいう中で、一番大事なのは人にとって使命なんだなと、使命ですらファンタジーかもしれませんが。
使命って、その人がそう信じているだけであって、それは合理的な理由なんて何もない。
でも使命感に基づいて生きるというのが、一番幸せなんだなと気づいたときに、
これからの一生、どれだけ安泰に過ごそうか、どれだけお得にすごそうかと思うより、使命に沿って生きる方が、幸せなんじゃなかろうかという判断をしたということです。
そこはご一緒じゃないですか?
荒木:そうですね、私たちの会社も全国のエンジニアを元気にするという使命感だけでやっているところがあって、結構大変なんです。
だけど、それを仲間と一緒に追い求めたりとか、一緒にやっていくことのプロセスがすごく楽しくて、それは、使命があるからできるんだというのは、すごく感じています。
基礎教育という、こういう領域って別に新しいことでもないので、注目はされないですけど、何かそこにすごく使命感を感じています。
林:“ほかの人が使命を見つけるための仕事”を自らの使命とするのは、人類としての幸せを追求する上では、究極的に大事な仕事の一つだと思います。
私たちは、物をつくる事を使命にしたいとか、子供たちに夢を持ってもらいたいといった使命感を持つ方々へ、働く場所を提供しているとも言えます。
貴社がそこへのマッチングをはかってくださるというのは、私たち企業にとっても、弊社に出会った人々にとっても、とても大事です。更に、まだ自らの使命に出会っていない受講者の方々に対して、それに気づいてくれるようにと期待を込めて研修をなさっているのは、とても素敵なことだと思います。
荒木:ありがとうございます。
当社の研修を受けている方々に、究極を言えば、林さんのようなキャリアパスをつくってあげたいなという気持ちがあります。
産業を支えるエンジニアをいっぱい増やしたいなという、ワクワク感でやっています。
会社の最大のメリットって、
やりたいことだけじゃないことを、やらされること
林:いろんな産業を支えるエンジニアの方々、そんな人材を輩出されている貴社の方々や、貴社のお客様など、全員が産業のエコシステムのどこかの役割を担っています。それが仕事であり、そこに使命を見つけられると生き甲斐になって良いと思うのですが、ここで大事なのは、使命=やりたい事とは限らないことだと思います。私の経験上、会社のメリットの一つは、やりたいこと以外もやらされることだったと、私は思うのです。
荒木:それ、面白い。
林:自分がやりたいことだけやっていると、結構すぐにやり尽くして行き詰るんですよ。
好きなことだけやって突き抜けるって、どれだけ しんどいかっていう話です。
好きなことばっかりやれて幸せ、という最初の蜜月の時間を過ぎたあと、その先を自らの力だけで突き抜けられるのは、ホントに一部の天才しかいなくて、多くの人にとっては、好きなことだけやっているが故に自分の限界にぶち当たり、それを乗り越えられなくて地獄の片鱗をみることになると思うんです。
凡人にとって大事なのは、好きなことをやりながらも、自分が苦手なところを克服すること。苦手なところを克服すると、好きなところを突き詰めるための選択が増えるんですよね。だから好きなことと、苦手なことは、それが両輪になって価値がでると思うんです。
なぜなら、好きなことだけやる人なんてごまんとでてくるからです。たとえば、走るのが得意だから短距離走者になるようなもので、そこで一番になるっていうのは、本当に辛い事は想像がしやすいかと思います。でも短距離走もそこそこできて、パンも早く食えるっていうと、パン食い競争で一番になれる可能性が増えます。更に他に何かできるようになると、その組み合わせだけは自分だけの得意領域になって、だんだん競争相手が減ってくる。そうして自分が活躍するための敷居が下がってきます。それはニッチな領域なんですけど、地球上には人が70億人もいて、更にインターネットで繋がって経済活動をいしている今の世界においては、どんなニッチ領域でも、自分が活躍できる領域を必要としてくれる世界があります。そうして、そのニッチ領域で活躍できると、自信がついて、更に次の領域に飛躍できる動機にもなります。そうして良い循環が回り始めるわけです。
荒木:厚労省の発表で、1年間にIT業界に3万人の大学生が参入するのですが、そのうちの64%が文系なんです。すごいですよね。20年前には考えられないことで・・・。
その文系出身者が、新しいサービスとか、貴社でやろうとしている 単に機能的なものでなく心地良いものとかを考えていくのではないかと、他のことをやってた人が、思想でITのベーシックを変えていくんじゃないでしょうか。
林:その通りだと思います。
弊社には、元々プログラミングが好きなエンジニアは当然いますが、それ以外に、もともとは、アート領域が好きだったんだけど、生活のために仕事としてプログラミングをやっていたら、アートとソフトウェアをコラボレーションさせる領域が面白くなって、それを趣味にしていたら、今はそれが転職後に、弊社での仕事になっています、みたいな人もいます。
荒木:すごいなそれは
林:結局お金になるところって、そういう work as life的なところになってくるんだと思うんですね。
荒木:そうですね、差別化されますよね
人の代わりに仕事をすることよりも、
人との信頼関係を結ぶことの方に重きを置いたロボット
林:新しい組み合わせって、人生においても、生活においてもすごく大事で、例えばLOVOTってloveとrobotとかけ合わせているんですけど、組み合せた瞬間に存在意義自体が新しい存在になるんですよね。
Loveは使い古された言葉で、robotも使い古された言葉なので、その各単語からだけで発想するものは、過去から今に至るまで、世界中の人が考えてきています。その時点で競争が激しい“レッドオーシャン”だと想像できます。
そこで更に上に行こうとすると、短距離走で一番になろうとするのと一緒で、天才以外にとっては、かなり辛いわけです。
それに対して、組み合わせた先に何か作ろうと思うと、其の領域を考えた事のある人は、ぐっと減ります。私どもの製品は、まぁ作るのは確かにそれほど簡単ではありませんが、それでも直感的に理解できるものなので、実際に試作品を見ていただくと皆さんに「これは、いいね」と言っていただけます。このように、組み合わせの領域だと、自分たちがそこで優位に立つのが、現実的になります。
今やろうとしているロボットは、簡単に言えば、人の代わりに仕事をすることよりも、人との信頼関係を結ぶことの方に重きを置いたロボットです。
テクノロジーが進化して、AIやロボットが人の仕事を奪っていくんじゃないか、みたいな話があります。優秀な相棒ができるのは、本当は嬉しいことなのに、信頼関係がないから、恐怖になってしまっている。テクノロジーの進化に対して、自分の未来が不安であるという人が多くいるのは、人とテクノロジーの間に十分な信頼関係が構築できていないからだと思うんです。
なので、私たちがやりたいのは、最先端のテクノロジーを人との信頼関係を結ぶためにだけに使う、という事です。信頼関係を構築した先には、結果的に私たちを支えてくださるお客様が増えるんじゃないかな、と思っています。
たとえば今は、まだ企業が情報をなるべく無料で入手して、それをビッグデータとして処理してマネタイズするというビジネスモデルが主流の中で、私たちはどちらかと言えば、どう信頼関係を結んで、その後でお客様がサービスを受けたい時に、お客様の選択として自らデータを提供して、お金も支払っていただければいいと思っています。お客様と信頼関係が築ければ、それも出来るだろうと思うんです。
そのために、ハードウェアとソフトウェアを設計しているので、他のロボットもしくはAI産業がやっている部分とかなり違なる産業領域をターゲットにしています。結果的に競合となる企業もいない状況です。すなわち、最初はマーケットがそもそもないゼロの状態からのスタートと言えます。弊社のLOVOTには生命感を宿すため、ハードウエア的にもソフトウエア的にもリッチにリソースをつぎ込んでいるので、原価もそれなりに高くなります。誰でも買える値段にしたいとは思いますが、実際にご購入いただく際には、少し勇気が必要な金額になると思います。その値付けを関係者と議論すると、人によっては無論「高い」というのですが、人によっては「安すぎるだろう」言われたりもします。そのくらい、まだ価値が定まっていない領域です。
この現代社会の中で、多くの人たちの癒しになり、「それが側にいたらいいな」と人々が願えるような、そういったものを生み出そうとしています。
荒木:いろんな記事や取材をみていると単にロボティクスの技術を世に公開していくのと全然違って、むしろ癒し産業みたいな、そういう領域なんだなと。
林:幸せにいきるためには、先ほどの「より良い明日が来る事を信じられる」といったような気持ちが重要です。だからこそ、そういった明日への活力をサポートできる体験や存在を作り出せる産業が、最終的にとても大事になると思っています。あくまで快楽というよりも、明日に向かって前向きに生きるための手助けする、ヒーリングや休息の場を提供するための人の相棒をつくる、そういう狙いでやっています。
荒木:ロボットについてもう少しお伺いしますが、どんな方、たとえば世代というか、ファミリー、コンシューマ、個人なのかミドルとか、何を意識なさっていますか?
林:マーケットをリサーチしてみると、ほぼ子供から大人まで強い需要があります。若干、需要が弱いところは、働き盛りの男性です。働き盛りの男性は、何が欲しいかというと、どちらかというと秘書みたいな存在で、たとえば、Google home とか Amazon EchoとかSiriとかそういった機能の進化したものです。そういう分野は、世界中のAI、ロボット会社ががんばっています。でもその領域って、むしろ私たちのような“働き盛りの男性”世代が、自ら欲しいものをつくっているという、すごい分かりやすい構図とも言えます。
荒木:なるほど、ぼくたちがほしいと思っているもの、ですね。(笑)
林:新規事業の検討においてロボットやAIの話になると、働き盛りの男性達は自分たちが欲しいと思っているものぐらいしか想像力は広がらず、それがマーケットの全てだと思ってしまうのかも知れません。結果的に、世界中が同じような事をしているのに、自分たちもそれを作ろうと頑張っちゃうわけです。でも実はその働き盛りの男性以外の層が皆ほしいと言っているものがあったわけで、そこに嵌まるのがLOVOTです。でもそこって、働き盛りの男性にはなかなか企画されて来なかったわけです。楽しみにしていてください。
荒木:全然視点が違いますよね。
振れ幅が快感になっている人は、おそろしい学習能力を発揮する
林:人の成長について話す時に、私はボラティリティ(Volatility)っていう金融業界でよく使われている言葉を引き合いに出します。ボラティリティとは、価格変動の度合いを示す用語で、投機的になったりして価格変動が大きくなると、ボラティリティが大きいと使われたりします。
私は人生においても、経験のボラティリティが大きい方が学習機会が多いと思うんです。
よく間違ってしまうのが、自分の人生をなるべく高値安定させようと、収入をちょっとでも上げて、ちょっとでも安定させようというのを優秀な人はやりがちですね。
一見賢い選択なのですが、実はそうすると、本当の学習機会が少なくなるんですよね。新入社員の頃はあんなに優秀だったエリートが20年も経つと、かつての輝きがなくなってしまう理由の多くがそれが原因だと思うんです。
入社当時はすごく優秀なんだけど、良い会社に入り、素晴らしいオペレーションの中で働き、生活レベルも高値安定のところに身を浸すと、結果的に振れ幅が狭い人生になってしまう。生活品質の高いところだけを歩み続けることによって、優秀だった人が、学ぶチャンスを失って成長の機会も失ってしまうわけです。
それに対して面白い大人たちは、たとえば昔はニートだったのに、最近までは一部上場の企業で働いていて、なぜか今は給料を半分にして、スタートアップにいますとか、そういった振れ幅の高い人たちに多い気がします。そういう人たちって、一部上場企業の仕事の進め方はわかった、とか言って、惜しげもなく辞めちゃったりするわけです。
そうして振れ幅の大きさが快感になっている人は、何かある度に、おそろしいほどの学習能力を発揮します。多分、この振れ幅に対する快感って、全員が持っていると思うんです。人は全員持っているんだけども、どこか一定の、自分のキャパとして快適な範囲の振れ幅に、慣れていっちゃうんですね。だからそうやって自分が慣れ親しんでいる振れ幅以上のことをやろうとすると、急に怖くなる。
短期的に自分の身を守るためだけだったら、その振れ幅の小さい方が安全なんですけど、こと学習に関して言えば、鍛えられない。結果、長期的には自分の身をリスクに晒してしまう可能性すら秘めています。
そういう意味において、私も最初の会社を辞めるときはすごい怖かったんです。いまからすると理解できないほど怖かった。同じように、弊社に転職をしたいという人で、長年大企業に勤めてこられた人たちは、多くの場合にはとてもビビッっているわけです。
すごい来たいけど、すごい怖いし、家族のブロックもすごい・・・。当然ですよね、その人だけではなく、その人が生活を支えるコミュニティである“家庭”のメンバーにとっても、未知なる恐怖のはずです。
それはやはり、安定した生活でボラティリティの幅が狭くなっていて、“単なる転職”に対しても、なぜかハードルがやたら高く見えてしまう。過去に長年身を浸してきた生活のボラティリティの大きさ以上の変動に対する許容度が、なくなっているわけです。
でもいったん会社を出ると、“びっくりするくらい、なんてことなかった”なんていう経験談を大企業から飛び出した人々から聞く事が、私はよくあります。なんてことないどころか、新たに学ぶものが沢山ある。結果的に自分は、どこでも生きていけるという自信がつく。そうして人材の流動化が進みだすと、職場と個人のミスマッチなどにおいても変な我慢をしないで、自分が最も活躍できるところへ行けるようになる。こういった流れが広がって行くのが、日本の復活というか、もう一度輝くために必要なキーポイントなんだろうな、と思います。
ボラティリティを大きくするだけだったら、実は自分の意思決定だけで、誰でもできます。しかし自分の選択で損するかもしれないという恐怖が誰にでもあって、実際には簡単にボラティリティを大きくする選択はできません。だからこそ、損とか得とか無い、経験とそれに伴う学習機会が何より大事なんだ、というところにいけると強いんですよね。
未来のひろげ方には、偶然や運命といった要素も関係無いとは言い切れないけど、おそらくそれ以上に、自分の意思決定が大事なんだと思います。
荒木:最後に、未来につながる言葉、ありがとうございました!
■GROOVE X
代表 取締役 林 要(はやし かなめ)氏 略歴
1973年 愛知県生まれ
1998年 トヨタ自動車にてキャリアスタート
スーパーカー“LFA”等の空力 (エアロダイナミクス) 開発
2003年 同社 F1(Formula 1)の空力開発
2004年 Toyota Motorsports GmbH (ドイツ)にて F1の空力開発
2007年 トヨタ自動車 製品企画部 (Z)にて量産車開発 マネジメント
2011年 孫正義後継者育成プログラム
「ソフトバンクアカデミ」外部第一期生
2012年 ソフトバンク 感情認識パーソナルロボット 「Pepper(ペッパー)」のプロジェクトメンバー
2015年 GROOVE X 創業 、代表取締役 就任
2016年 シードラウンとして国内最大級なる 14億円の 資金調達完了
2017年 シリーズAラウンドにて 43億 5千万円の資金調達完了