tl09_01.jpg

荒木 泰晴
株式会社 エンベックスエデュケーション | 代表取締役

矢野 健三

株式会社デンソー | シニアアドバイザー

100年に一度と言われる自動車業界大変革の中、世界第二のメガサプライヤーである 株式会社デンソー シニアアドバイザー ソフトウェア改革推進室 の矢野 健三 氏に、クルマからモビリティ社会実現に向けた ソフトウェア戦略について、お話をいただくことができました。

新しいモビリティ社会へのキーワードは「環境」「安心」

荒木本日はお時間をいただきありがとうございます。
自動車業界が大きな変革期を迎える中、デンソーが取り組むモビリティ社会についてお話をお伺いできますでしょうか。

 
矢野:デンソーの考える新しいモビリティ社会へのキーワードは「環境」「安心」です。これを実現するためには、ソフトウェア技術がとても重要な役割を果たしていきます。
創業以来デンソーは、自動車業界のTier1としてクルマの単一ドメインでの技術(例えば パワートレインやボデー、シャシなどの技術)を磨くことで、クルマの進化を支えて来ました。
これからのモビリティ社会では、単一ドメインの技術進化だけでは対応できません。
クルマを動かすエネルギー制御、自動運転など、より高度なクルマのインテリジェンス化を可能にするためにはドメインをまたがる統合制御、種々センサーとのインターフェースや通信技術など、クロスドメインの技術が必要です。
現在、デンソーではそうした様々な「クロスドメインECU」の開発に力を入れています。

tl09_02.jpg

荒木: まさにクルマからモビリティへの進化ですね。

矢野: 今後 クルマは、サービスの一つとなり、どう移動するかという移動の価値にスポットが当てられていきます。
In-Car(車内)の電子制御ユニット・電子デバイスなどに関わる車載組込み系と、Out-Car(車外)との通信・コネクティッド技術によるITクラウド、サービスアプリ系。
この両者の連携により、モビリティ社会が実現します。
これからますますクロスドメイン技術の進化が求められる中、クルマとITをつなげる界面、言い換えるとIn/Out統合プラットフォームの標準化でデンソーの力を発揮して行きたいですね。

tl09_03.jpg

ヨーロッパで、なぜクルマの標準化がこんなにスムーズに進むのか

tl09_04.jpg

荒木: 矢野さんは、ドイツで 欧州における電子分野の開発拠点立ち上げでご活躍されたとお聞きしています。
 
矢野:2010年にドイツのアーヘン研究所で電子部門を立ち上げ、その後、デンソー欧州技術統括責任者として欧州のパワートレイン、電子、電動化、情報安全分野の先端技術の研究と先行開発に携わりました。
3名でスタートした電子部門ですが、2015年 所長をさせていただいた頃はアーヘン研究所で 40名を越え、欧州全体では100名ほどの体制になりました。

荒木: すごいですね!

矢野: ドイツには、自動車メーカーとして非常に強いブランド、ダイムラー、BMW、フォルクスワーゲン、アウディなどが割拠しています。
自動車メーカーを支えるTier1としては、ボッシュ、コンチネンタルなどがおり、全体でドイツ自動車業界を支えています。
ドイツへ行く前は、同じクルマづくりのアイデンティティにおいて共通性があるとイメージしていたのですが、いざ行ってみると 業界の構造がまず違う、カルチャーが違う、マインドが違う、そしてその非常に合理的な考え方に驚きました。
北極圏から地中海に拡がるヨーロッパ大陸には、だいたい50、その中でEU経済圏だけでも30くらいの国がひしめき合っています。
天候の違い、言葉の違い、文化の違い、クルマに求める価値の違い。
そんなバリエーションに富んだヨーロッパだからこそ、最初に 標準をつくることの重要性を知りました。
国をまたいですぐに移動できるヨーロッパでは、国によって使える機能に差があっては、お互いに不利益です。
必然的にスタンダードを作り、標準の領域では戦わずに 残された競争領域でしのぎを削る。
無駄のない構造だからこそ、独自性が磨かれるのでしょう。
ヨーロッパで、スムーズにクルマの標準化が進むのは、この合理的な考え方に根ざしています。
環境、文化で淘汰されたクルマの標準が、ドイツから発信され、ヨーロッパの標準、世界の標準につながって行きます。
日本のように、最初に車両メーカーそれぞれのブランドでユニークなクルマが出来上がり、そこから標準化しましょうというのと、全く違いますね。

tl09_05.jpg

クロスドメインで活躍してもらいたい

荒木: なるほど、バリューチェーンに関する考え方の違いがすごくよくわかります。
非常に合理的な考え方ですね。
勝ちどころを知っているというか。
そういうヨーロッパならではの考え方は、人材の育成にも現れているのでしょうか?

矢野: そうですね。
ドイツでは、大学卒業後、企業に入って3年くらい実務を積み、また大学に戻って より専門性を高める勉強をし、また企業で実務を積み、また大学にもどる というような、
アカデミックな知識と実践的知識を持ったプロフェッショナルな人材が、多く輩出されています。
そのような人材には、責任と権限があり、会社に入社した時には 第一人者として認められ活躍できるようになっています。
日本ですと、せっかく育てた人材が 大学や他社へ行ってしまうことに抵抗がありますが、ドイツでは、優秀なポテンシャルを持った人材は国の宝なので、国がみんなで育てれば良く、それは国力となる、という考え方があります。

荒木: 人材育成の観点の違いが、興味深いですね。
日本では 企業の方にスポットが当てられ、企業の価値を上げる企業文化が先に育ってきています。
ちょうど、企業文化の中で埋もれてしまっている人材(エンジニア)を、もう少し目立つようにしたいと思っているところでした。

tl09_06.jpg

矢野デンソーで今取り組んでいるソフトウェア・ソムリエ制度は、エンジニア一人一人が専門性を高めてエキスパートの道を進んだ結果として、一定の権限と発言力を持ち、周りから認められ リスペクトされる人材を育てることを目的としています。
単一ドメインで量産体制構築と効率化を追求してきたので、分業化の中では多くのスペシャリストの方々がいます。
クルマの部品や仕事の方法を知り尽くしたメカ・エレクトロニクス(電子系ハード)のエンジニアにも、ソフトウェアを学んでもらい、成長領域、またはクロスドメインで活躍してもらいたいと思っています。

現在実施しているリカレント教育では、
貴社には座学のところ(C言語)をお願いしていますが、
座学だけなくOJTも含め 5ケ月間 実務からはなれ、勉強に集中していただいています。
ドメインをまたいで活躍できる人材の育成、人材の流動化を図ることで、これからのモビリティ社会に対応できる人材を輩出して行くことが、この制度の目的です。

共通のものさしによるスキル定義の「標準化」

荒木: 基礎を学ぶと、理解力が上がり行動につながって行きます。
デジタルリテラシーが上がっただけで生産性が高まっていくのを、人材育成を通してみてきました。
教育の重要性は、計り知れません。

矢野: クロスドメインの機能統合でソフトウェア開発規模はますます大規模化しています。
このような大規模なプロジェクトをマネージメントできる人材、統合システムを設計できるシステムアーキテクト人材などは、常に不足しています。
データ・サイエンティスト、システムアーキテクト、セキュリテイ、高速ネットワークなどの技術者については、その技術者が持っていなければいけない能力や役割を、共通言語で定義し、人材の育成を進めて行くことが重要です。
弊社のグループ会社を含めた人材の流動性を高めるためにも、共通のものさしによるスキル定義の「標準化」は必須です。

荒木: エンジニアのスキル定義の標準化によって、より活躍できる人材を可視化して行きたいですね。
2022年度は、当社の組込み技術の研修に CASE(Connected, Autonomous,Shared & Service, Electric)につながるコースを新設しました。
モビリティ社会で貢献できる人材育成に、今後も真摯に取り組んで行きますので、どうぞ宜しくお願い致します。
本日はお忙しいところ、お時間をいただきましてありがとうございました。

tl09_07.jpg

株式会社デンソー
シニアアドバイザー、ソフトウェア改革推進室
矢野 健三

1984年 日本電装株式会社 入社(1996年 株式会社デンソー)
2009年 電子技術3部 部長
2010年 デンソー・オートモーティブ・ドイツ出向 電子分野統括
2015年 株式会社デンソ― 理事 就任
            デンソー欧州技術統括、アーヘン研究所 所長
2018年 エレクトロニクス事業部 副事業部長
2020年 モビリティシステム事業GR ソフトウェア改革担当
2021年 シニアアドバイザー、ソフトウェア改革推進室

現在に至る

tl09_09.jpg