第8回 対談|中嶋 信生 氏 2022年4月7日 最終更新日時 : 2022年4月8日 wp-admin 荒木 泰晴株式会社 エンベックスエデュケーション | 代表取締役 中嶋 信生 工学博士電気通信大学 | 産学官連携センター・特任教授UECアライアンスセンター運営支援室 現在、電気通信大学で特任教授をなさっている、工学博士の中嶋先生。 当社が担当した* 一般社団法人WSN-ATECの無線技術者講習で、教材の作成と講師トレーニングをお願いしました。 NTT Docomo で 移動体通信の第一人者として活躍なさってきた中嶋先生に、今回はSDGsから無線通信の未来まで、熱く語っていただきました。 *一般社団法人WSN-ATEC: https://wsn-atec.org/ SDGsのなかでの教育 中嶋: さて、SDGsのなかでの教育という 大きなテーマをいただいてしまいましたが、SDGsは、貧困とか差別をなくそうという世の中にある普遍的な課題も入っており、そこでの教育のあり方というと、何処に注目するかで焦点が違ってくると思います。その中で、技術者へ対する教育はどうかな というところに着目すると、持続社会を実現するために、技術者はどうあるべきか、どういう技術者を育てて行けば良いか、という2つの視点が出てくると思います。 広い意味で、SDGsは 国や世界がその方向に向いていなければ、教育だけ進んでいくことはありえません。SDGsを考えないとどういうことになってしまうのか、SDGsに取り組むためにはどうしたらよいのかを、子供から大学生、あるいは大人、高齢者など、一人一人が小さいときから勉強して行かなくてはいけない。何処に問題があるかを発見する能力、それを解決する能力、を訓練していくような教育を、まずは子供たちにやっていかなくてはいけないと思います。 荒木: なるほど、何が問題かを捉える能力を、小さいうちに身につけておくのは、 すごく重要だと思います。中嶋: さらに、技術に関心を持った子供たちが、大学に入ってきたときには、SDGsの問題へのソリュ―ションに向けて行動できるように、啓発できる体制にしておくことが大事だと思います。一番端的なのは、研究テーマとして取り組んで行く方法かもしれません。特に有効な手段としては、SDGsに取り組んでいる企業と一緒に研究するような方法を示す。電気通信大学でもIndustrial Ph.D(産学官連携による研究と人材育成)に力を入れており、企業と一緒になって実践的な内容をテーマにして研究する取組みがあります。北欧デンマークではすでに始まっており、対象企業は学生に給与を出すくらいのことをやっています。まさにSDGsに向けた研究には、非常にいい取組みではないかと思います。ただそれだけでは足りなくて、社会人や退職した高齢者も一緒にやっていかなくてはいけない。その辺りの「社会人に対する教育」は、貴社の出番ではないかと・・・!いろいろなカリキュラムで、学びやすい環境をつくる。ものづくりの技術から、インターネットの技術、AI技術、そういういろいろなものを組み合わせて解決していくのが、SDGsの技術的ソリューションのような気がします。 無線通信技術の変遷 荒木: ありがとうございます。SDGsの社会的な問題を解決して行くには、ITのような技術と、人・人的なもので解決して行く方法があると思います。その技術の中で、先生の専門分野である「無線通信」は、実は全てのものに使われる技術要素ではないかと思っています。みんなが使っている携帯も、当たり前のように通信技術を使っています。現代において、全く通信しないものをみつける方がむつかしい。中嶋先生が培っていらした無線の知識・技術というのは、どのような変遷を経てきたのでしょうか。中嶋: 好奇心の強い人間で、興味の赴くままに進んできたわけですが、教科書通りに進むタイプでなく、自分で色々な視点で試していくアプローチが好きでした。自分でわからなければ、他の方に聞いてみたり、専門家に聞いたり、無線にはいろいろな方式があり、特徴が異なるので、技術分野の違いや応用分野の違う人々と議論を交わすことにより、お互いに気づきが生まれて、新しいことに自分も相手も気づく。インタラクティブに勉強するのが、今までの自分を作ってくれました。70年代に テレビ電話が出来ていまして、それを見た時「これがこれからの通信手段になるんだ!」と思いましたが、そうは行かなかった・・・・。2000年に入って、携帯電話の第三世代でテレビ電話ができるようになっても、インターネットやデータ通信の方が流行している状況でした。今、コロナ禍でZOOMを使わざるを得なくなって、やっとみんなが慣れて、使ってみると意外と便利だしと、ようやく、テレビ電話の扱いが一般的になってきた。みんなが使わなかったということは、使ってみたいと思わなかった。技術者の予想は当たらない・・・・。荒木: そうですね(笑)技術者の「良い物をつくれば売れる」は、違うんですよね。でも70年代のテレビ電話と言えば、専用回線だったと思います。今のZOOMなんかよりクオリティが高い画面ではなかったのではないでしょうか。不思議ですよね、時代の求めるものって。 中嶋: NTT Docomoでは、その携帯電話第三世代くらいまで 第一線でがんばってきました。最初は、携帯電話で電波を使うと聞いてビックリしながら、そもそも移動通信技術は、こんなに注目される分野ではなかったので、たまたま大きくなっていった感があります。上手く行った・行かなかったという感覚より、これだけ注目されるような分野で活躍できてよかったなぁと思っています。楽しかったですね。荒木: 今、自動運転のADAS(先進運転支援システム)では、センシング技術やレーダー、ヒューマン・マシンインターフェースなど、情報の伝達という手段で通信技術が使われていると思います。すべてがデータをとって、フィードバックを受けてというような世界で、よく事故が起こらないなと感心してしまいます。中嶋: たとえ問題が起きても、それをつぶしていく。ソフト開発の方も一緒だと思いますが、最初は半分くらいエラーになっても、そのエラーをみつけて解決していく。問題をみつけたら、つぶしていく、99.9パーセント定量化して解決していけばいい。試行錯誤ですよね、そうすると当たり前のようにみんなが使えるようになれる。自動運転は、これからすごく重要になってきます。自動運転は、主にセンサーとか車の制御とか、車自体のシステムも大事ですけれども、外部との通信というのも不可欠です。レーダーはすでに無線技術が使われていますが、車と車間の通信、人と車間の通信、車一つ向こうの車との通信、交差点の向こう側の見えない車との通信、いろいろな、 そういう情報をゲットすることで、自動運転は人より安全な走行ができるようになっていくと思います。そういう意味では、無線というのはスゴク重要になってきます。 無線通信技術の未来 荒木: これだけ、多岐にわたって使われている無線通信技術ですが、ツールとして使えるようになったがために、無線自身の研究にスポットが当たっていないような気がします。5G、6Gなどの新しい技術も出てきているので、これからの無線通信技術の研究、あるいは無線通信技術者育成について、もっと仕組化できたらといいなと思います。中嶋: そうですね、無線はツールとしていろいろなことが実現出来るようになってきたので、最近は、情報テクノロジーやAIテクノロジーを選択する学生が増えています。無線の用途は非常に拡がっており、その用途を実現するために基礎まで戻って考えるのは容易ではありません。しかし、無線の知識のネットワークがあるというか、難しさを知っていて対策を示唆してくれるような仲間がいると、研究の幅が拡がり、解決の可能性も高まるだろうなと思います。先日作成したWSNの無線技術者講習の教材は、そういう意味では、どんな人でも分かるように作りましたが、さらにもっと興味がでて、もっと深堀りしようと思えばできるようにしたつもりです。無線技術者がアプリケーションを考えるのと逆にアプリケーションを作っている人が無線のことを勉強するようなそういう講習を試してみたいですね。どうなるだろう という期待をこめて講習できるような気がします。5Gや6Gなどの次世代通信システムは、それにかかわる企業も技術者もたくさんいて、ドンドン進歩しています。無線技術の用途は拡がり、これからも数限りなく いろいろなテーマや、課題が出てくると思います。研究者や技術者が余ることなど絶対なく、5G、6Gが発展するほど、いろいろな技術者が必要になってくるので、若い人だけでなく、自分も現役でがんばって行きたいと思っています︕︕荒木: 是非!お願いします。非接触で電気が充電できる時代です。新しい技術が、これからも実現されていきます。エンベックスエデュケーションも、年齢に関係なくいろいろな方に学ぶ機会を与えられるような会社になって行きます。 中嶋 信生 氏 経歴電気通信大学 産学官連携センター・特任教授 2013/04/01-現在電気通信大学大学院情報理工学研究科 教授 2010/04/01-2013/03/31電気通信大学電気通信学部 教授 2000/09/01-2010/03/31㈱NTTドコモ 取締役ワイヤレス研究所長 1998/07/01-2000/06/30NTT移動通信網㈱ 主幹研究員 1992/07/01-1998/06/30電電公社電気通信研究所 社員 1972/04/01-1992/06/30