第7回 対談|平井 聡一郎 氏

平井 聡一郎
株式会社情報通信総合研究所 |
ICTリサーチ・コンサルティング部 特別研究員

荒木 泰晴
株式会社 エンベックスエデュケーション | 代表取締役

2020年のICT教育改革は、明治維新以来の教育改革!?

33年間にわたり、茨城県で小中学校教諭・校長・教育委員会指導主事として活躍していらした平井氏。
これからのAI時代を生き抜くために不可欠なICT教育の普及に向けて、日本中を最近では海外にも足を伸ばして、『エバンジェリスト』としてその存在感を発揮しています。
「教育」の在り方

荒木: 平井さん、ずっと飛び回っていますよね。
平井: そうなんですよ。ここ3年、ICT教育の普及のために全国を飛んだり跳ねたりしてます。(笑)
荒木: でも楽しそうですよ。ズバリ、その原動力ってなんですか?
平井: 僕ね、2020年のICT教育改革は、明治維新以来の教育改革だと思っているんです。
単にICT機器を導入して、プログラミングをやればいいってことでなく、どうして、今、何のために ICTが必要なのかっていうのを、ちゃんとわかってもらいたいのです。

平井: 日本人の人口は、2100年には今の1/3になると言われています。
人がいないのだから、外から人がドンドン入ってくるだろうし、AIを活用したロボットや機器が台頭してくるのは目に見えている。
その時に、共通語になっているかもしれない英語や中国語がわからないでどうするの?と同じで、ICT技術がわからなくて、あなたの仕事大丈夫?ってことなのです。
今から、そういう時代に対応できる仕組みを作って行かないと、貧しい日本人になっちゃいますよと、そこまで危惧しています。
だって今のアメリカのホワイトアングロサクソンで、poorになってしまった人たちは、その辺りの「教育」の在り方が原因ではないでしょうか。

先生方ができるプログラミング

平井: 地方を回って、あらためてしっかり伝えていかなければと思いましたね。
もちろん熊本市のように、地震でお城の修復にお金が必要だろうに、教育にも ちゃんとお金を使っているところもあります。
24,000台ものiPadを揃えて、すごいですよね。
どこか1校がスペシャルになって、他校に広めるという手もありますが、地道に、まず先生方が学んで、生徒に教えて行ってほしいと思っています。
だって先生方が指導できないと、子供たちの評価ができないじゃないですか。
先生方にできるプログラミングでいいんです。高度のプログラミングはクラブ活動等を利用して外部に任せればいい。
普通の教科の中でやっていく、プログラミングでいい。算数の授業で行うプログラミング。理科の授業で行うプログラミング。
先生に意識してほしいのは、ICT機器を利用したときに出てきたトラブルの切り分け。
これは機器のトラブルか、言語か、インフラか、原因がわかれば、修理はプロに任せればいい。

荒木: なるほど
平井: 校長先生と指導主事の方を対象にした「あした会議」ってやっています。
教育委員会にお願いして、校長先生と主事の方を集めていただき、プログラミングってこうだよって伝える場にしています。
まず、学校のトップにわかってもらい、次にリーダー、そして全員へという3段階の研修に意義があります。
トップが理解すると、下がやり易い。
プログラムができる教員が一人でがんばっても長続きしない。他の人が引き継げなかったり、変に突っ走ったりにすることがあるからです。
提案するのは校長、判断するのも校長、実際に教えるのは教員。
校長の意識一つで変わります。

ICT教育に対する取り組みに違いが出てきている

荒木: 3年間の活動で、何か課題は生まれましたか?
平井: 課題は、格差が広がってしまったなと感じています。
ICT教育に対する取り組みに違いが出てきているのです。
旧態以前の教え込みの指導を変えようとしているところと、していないところの「差」ですね。
荒木: 上手な表現ですね。

平井: もちろん、変えようとしている学校が増えてきているのも事実です。
英語より、プログラミングの方がやったことがないので、余計やらなくてはという危機感が出てきています。
依然は機器整備に関する問い合わせが多かったのが、今は地方の市や町からプログラミングについて聞きたいというリクエストが増えてきて、本当に嬉しいです。
何よりも、スタートしてくれたことが素晴らしい。

日本って、もっとスペシャリストになるための教育が必要だと思います

平井: また、ICT教育における課題というより日本の一斉教授型の教育は見直す時期に来ていると思っています。
確かに1クラス 40人や50人という時代に、効率よく効果を上げて行く学習方法として一斉教授型の授業を行ってきたのは、正解です。
でも学び方を変えるのだったら、1クラスの定数を下げないと無理。
イエナプランやPBL(Project Based Learning)をやるのだったら、1クラス25人に先生二人。
荒木: あ、わかります、それ。
うちの研修も、15名を越えると講師を二人にしています。PBLによる研修なので、15名を越えて一人の講師でやると、目に見えて研修の品質が落ちます。成果物の出来具合がまず悪くなる。
日本って、もっとスペシャリストになるための教育が必要だと思います。
小・中学校は、地頭をつくっていく時期。
高校・大学は、自分が目指している分野で活躍できるように勉強する時期。

平井: そう思います。中・高の教育が社会と乖離している。
中学校は高校への受験勉強、高校は大学への受験勉強になってしまって、社会のニーズとリンクしていない。
荒木: 入社してから適性がなかったとわかるって、企業と本人、お互いにつらいと思うんです。
総合職は別にしても、専門職 Specialistとして活躍したいのだったら、そういうキャリア教育を考えるべきです。
うちの研修を大学に取り入れていただきたいと、真剣に思っています。

「コミュニケーション」 「クリエイティブ」 「スペシャリティ」

平井: これから生き残るのに必要なキーワードは
「コミュニケーション」「クリエイティブ」「スペシャリティ」
教科書で身に付かないような技能を、自分で求めていくような意欲とスキルを持った子を育てて行きたい。
離島から北海道の奥まで、日本中にICT教育をひろげたい。
それには、最低ここまでやりましょうという ラインが必要。
出来るところから見れば、そのラインが低く見えても、まずスタートすること、全員に「新しい学びの機会」は必要です。
エバンジェリストとして、これからもがんばります。
荒木: 是非がんばってください。
キャリア教育について、真剣に考えている研修企業として、応援します。

平井 聡一郎 氏 プロフィール

茨城県で公立小中学校教諭、指導主事、小中学校の管理職を経験後、早期退職し2017年から現職。文科省、総務省、経産省のICT関係の委員等を歴任。現在、全国各地でローコストかつハイパフォーマンスを追求したICT機器整備のコンサルティング、ICT活用を切り口とした授業改善、小学校からにプログラミング普及等に取り組んでいる。