第5回 対談|障子 幹 氏

障子 幹
千代田区立 神田一橋中学校 | 校長

荒木 泰晴
株式会社 エンベックスエデュケーション | 代表取締役

2016年からスタートした課外プログラミング教室
今、どんどんプログラミングが日常に近いものになっている!

ICT環境が整った中学校として有名な東京都千代田区立神田一橋中学校。
2016年10月より、課外プログラミング教室を当社で担当させていただいています。
Raspberry pi をパソコンの代わりに使用し、LED やセンサーを使った より実践的な内容で、前期10回・後期10回と、2019年2月には 5回目のコースが修了しました。
今回 2018年4月に神田一橋中学校に赴任された、障子校長先生に、校長先生の視点からプログラミングについて、これからの教育についてお話を伺うことができました。

プログラミングを楽しむところからスタートしてる、
ってすごいなと思います。

障子:今の子どもたちにとって、プログラミングがどんどん日常の中で身近になっているのを感じます。昔 私がおしえていたころは、限られたツールの中で、コーディングシートを書いて、フローチャートを書いてと、紙の世界からはじまりました。プログラムが出来上がったところで、ただ動くだけと、何も面白くない(笑)。拒否感の方が強かったですね。その当時は、プログラミング教育って難しいなと思いました。
来年2020年から小学校でプログラミング教育がスタートします。プログラミング的思考を確立するには、何を使ってもよいと思うですが、中学校でやるからには、小学校と同じ規定、メーカーの既製品を使っていくのは、発展性がないと感じていました。
エンベックスさんの課外教室では、ラズベリーパイを使って、身近な題材を取り入れているので、とても取り組みやすい。
子どもたちは、簡単なゲームは自分たちでつくれると思っています。そんな意欲からプログラミングに入っていくので、拒否反応がない、楽しんでいる。プログラミングを楽しむところからスタートしてる、ってすごいなと思います。
荒木: そう言っていただいて嬉しいです。
ただ、パソコンを使うのではなく、ラズパイやブレッドボードを使って原始的なハードから、プログラミングというソフトに入ってほしかったのです。あんな小さな箱で、音やLEDを制御できるのを体験してほしかった。

使う人を意識したプログラミング

障子: 欲を言えば、子どもたちが社会に出た時に、このプログラミングを何か役立つ形で学ばせることができたらいいなと思っています。ゲームをつくることで、プログラミング的思考とか論理的な考えた方は身についていくのでしょうが、社会に役立つためには、実社会に即したところで、プログラミングがイメージできるものがほしい。
例えば、特別支援学校や養護学校の子たちのサポートができるような機会を持つのも一つの方法ですし、相手のニーズに応えたものをつくることによって、また別のやりがいが出てきて、今までと違う分野にも生かせることができると感じるのです。
荒木: よくわかります。
学校教育の中で、実社会に沿った 誰かのために役立つものを使るという機会は少ないと思います。プログラミングでつくったゲームでも、友達が遊んでくれる、お母さんが一緒になってやってくれるというのは、本人のやりがいを起こさせます。
今期の成果発表会には多くのご父兄がいらしてくださり、一緒楽しんでくださったのがすごく印象的でした。

やる気スイッチ

障子: 中学校で義務教育が終了します。この中学校の段階で、①学力的なもの ②人格的なもの ③将来の自分への在り方・考え方を身に着けさせたいと思っています。
教育方法が時代ともに変わり、ICT化が進み、目に見えるツールで、より分かりやすい教材・環境が整ってきました。以前より良い方法がこれだけ揃っているのだから、もっと伸びていいはずと思うのに、子どもによってやはり差が出てくる。
自分の持っている能力が、すぐに表に出てくる子、表に出にくい子、もっと先に出てくる予感のする子、この差って何なんだろうと思ったとき、気持ちの持ち方ではないのかなと感じています。
心の持ち方一つで、子どもって劇的に変化します。コマーシャルではないですが、その「やる気スイッチ」はどこなんだ、と。一人一人探して、押してまわりたいです(笑)。
荒木:思います、思います。
やる気になっただけで、すごく飛躍しますよね。
障子: ICT化が進みましたが、中身はブラックボックス化していると思います。プログラムって1文字違っても動かないものですよね。それを知っておく必要があると思うのです。
もしかしたら、今 子どもたちが習ったプログラミング言語は、彼らが成人になった時に、もう使えないものになっているかもしれない。
我々だって、30年前にだれがこんなインターネットやスマホの時代を想像できていたでしょうか。
文科省の言っているプログラミング教育は、プログラムを作るとか使うだけでなく、根本的な構造、プログラミングを構築するための基本理念の教育ということが入っていると思います。たとえ言語が変わっても、プログラミングを構築する概念は変わらないわけで、そういう教育を、早い段階で身につけさせてやりたいです。

荒木:確かに、今のスタンダードが10年先のスタンダードである保証はないですね。向き不向きは別にして、私も子どもたちには、早い段階でプログラミングに触れて欲しいと思っています。自分たちの身近で動いているものが、どういう風に制御されているか、知っているのと知らないとでは、大きな差になってくる時代です。

未来のための教育

障子: 私の社会人としてのスタートは営業です。営業で3年、その後高校の常勤講師、中学校教員、そして管理職研修で某大手企業に1年、新入社員と一緒に過ごしました。それから小笠原の中学校で7年、八丈島で3年。2018年度にこちらの神田一橋中学校に赴任し今に至ります。
島での生活はオン・オフがない。たかだか2,000人程度の人口です。みんなお知り合い。お互い、何を隠そうにも隠せないような環境です。そんな中で気づいたのは、子どもたちを指導するのに、怒鳴るって必要ないなということでした。

その子がよくなるように指導するのに、高圧的な態度は必要ないですよね。
何故それを今しなければいけないのか、何故それがよくないか、を教えてあげればよいのです。
中学という義務教育最後の過程で、これから社会の中で生きていくのに必要なマナーやルールを身に着けてほしいと思っています。挨拶やお礼・お願いなどキチンとできる子になってほしい。
そして、将来 自分の生活の糧を得ていくために、どんな自己実現をしていきたいのか、自分の言葉で語れる子になってほしい。
そのためには、我々 教師が輝いていないとだめですよね。教師と生徒 両方が輝ている学校、そういう学校を目指しています。
荒木: すごいですね。生徒への深い愛情を感じます。
わたくしどもも、社会人になったばかりの新人が、エンジニアという専門的な仕事を、IT業界という最先端の業界で、楽しく 活躍できるために研修を行っています。
それこそ、先生と一緒で、技術だけでなく人間力まで考えた研修です。
神田一橋中学校の生徒が、将来 わたくしどもの研修を受けてもらえるように、がんばります!