第4回 対談|林 要 氏(前編)

荒木 泰晴
株式会社 エンベックスエデュケーション | 代表取締役

林 要
GROOVE X株式会社 | 代表取締役

今の私の最大のテーマは、
世界に誇れる日本発の新産業をつくること、
その新産業に適した新しい組織と手段をつくること、
この二つです。

:自動車会社に十数年、その後通信会社に数年と、いわば日本の時価総額で一時期1位2位になっていた2つの会社で仕事をさせていただく機会に恵まれました。その過程で、今までの日本企業の強みをある程度、理解したつもりでいます。
ただ、これから未来に向かって進んで行くことを考えると、やはり何か変化が必要だな、と感じています。
当然、従来のやり方で成果を出してきた企業や産業にはその良さがあります。ですが、その企業や産業が過去に飛躍したきっかけとなった当時の成功事例は、世界中で研究され、模倣され、アドバンテージが減ってきています。そういった中で、一時期日本が世界のなかでも輝いていた時代をもう一度狙うのなら、やはり従来の延長では難しい部分があるのではないかと思っています。
では従来の延長ではない、日本の輝ける未来は何なんだろうと考える中で、今の私たちのやっている新産業、いや、まだ市場に出ていないので、将来は新産業になるかもしれない新しい事業と、それを生みだすための新しい組織、その二つをゼロからつくる事に今、チャレンジしているところです。
そんな私の最大のテーマは、世界に誇れる日本発の新産業をつくること、およびその新産業に適した新しい組織と手段をつくること、この二つです。

私の行き着いた仮説は、
人は使命を持つのが一番幸せなんじゃないかと

荒木:なるほど、あえて挑戦する必要がないのに、挑戦していく。
もちろんまわりからの、何か新しいものを生み出してほしいという社会的期待もあると思います。
ですが、なによりも、林さん個人が持っていらっしゃる使命感がすごくカッコいいなと思います。

:使命感って何だろうと考える過程で、結局幸せってなんだろうという問題に行き着いたんです。
みんな幸せになりたい。だから幸せになる方法やその定義をいろいろと私たちは考えるわけです。
労働時間を短くすることが幸せだと定義する人、お金がたくさん稼げることが幸せだと定義する人・・・。
私の行き着いた仮説は、人は使命を持つのが一番幸せなんじゃないかと思ったんです。

何故かというと、例えばお金をたくさん持ちたいのは、お金の先にある何かを想像して持ちたいと言っているわけで、お金そのものには 正直 何の意味も無いわけです。

お金って、みんなが価値があると信じるているから、効力がある、ファンタジーであって、お金に、みんなが価値がないと信じた瞬間に、単なる紙切れになるという。お金の先にある何かを想像してるんですけど、そういったものをどれだけ手にいれても、人って飽きるんですよね、おそらく。
どこまで快適になっても飽きるし、どこまで楽をしても、もっと楽をしたがる。
で、快適で 楽の先になにがあるかというと、多分、生きがいがなくなる世界が待っているわけです。
そのいう中で、一番大事なのは人にとって使命なんだなと、使命ですらファンタジーかもしれませんが。

使命って、その人がそう信じているだけであって、それは合理的な理由なんて何もない。
でも使命感に基づいて生きるというのが、一番幸せなんだなと気づいたときに、
これからの一生、どれだけ安泰に過ごそうか、どれだけお得にすごそうかと思うより、使命に沿って生きる方が、幸せなんじゃなかろうかという判断をしたということです。
そこはご一緒じゃないですか?

荒木:そうですね、私たちの会社も全国のエンジニアを元気にするという使命感だけでやっているところがあって、結構大変なんです。
だけど、それを仲間と一緒に追い求めたりとか、一緒にやっていくことのプロセスがすごく楽しくて、それは、使命があるからできるんだというのは、すごく感じています。

基礎教育という、こういう領域って別に新しいことでもないので、注目はされないですけど、何かそこにすごく使命感を感じています。
:“ほかの人が使命を見つけるための仕事”を自らの使命とするのは、人類としての幸せを追求する上では、究極的に大事な仕事の一つだと思います。
私たちは、物をつくる事を使命にしたいとか、子供たちに夢を持ってもらいたいといった使命感を持つ方々へ、働く場所を提供しているとも言えます。
貴社がそこへのマッチングをはかってくださるというのは、私たち企業にとっても、弊社に出会った人々にとっても、とても大事です。更に、まだ自らの使命に出会っていない受講者の方々に対して、それに気づいてくれるようにと期待を込めて研修をなさっているのは、とても素敵なことだと思います。
荒木:ありがとうございます。
当社の研修を受けている方々に、究極を言えば、林さんのようなキャリアパスをつくってあげたいなという気持ちがあります。
産業を支えるエンジニアをいっぱい増やしたいなという、ワクワク感でやっています。

会社の最大のメリットって、
やりたいことだけじゃないことを、やらされること

:いろんな産業を支えるエンジニアの方々、そんな人材を輩出されている貴社の方々や、貴社のお客様など、全員が産業のエコシステムのどこかの役割を担っています。それが仕事であり、そこに使命を見つけられると生き甲斐になって良いと思うのですが、ここで大事なのは、使命=やりたい事とは限らないことだと思います。私の経験上、会社のメリットの一つは、やりたいこと以外もやらされることだったと、私は思うのです。
荒木:それ、面白い。
:自分がやりたいことだけやっていると、結構すぐにやり尽くして行き詰るんですよ。
好きなことだけやって突き抜けるって、どれだけ しんどいかっていう話です。
好きなことばっかりやれて幸せ、という最初の蜜月の時間を過ぎたあと、その先を自らの力だけで突き抜けられるのは、ホントに一部の天才しかいなくて、多くの人にとっては、好きなことだけやっているが故に自分の限界にぶち当たり、それを乗り越えられなくて地獄の片鱗をみることになると思うんです。
凡人にとって大事なのは、好きなことをやりながらも、自分が苦手なところを克服すること。苦手なところを克服すると、好きなところを突き詰めるための選択が増えるんですよね。だから好きなことと、苦手なことは、それが両輪になって価値がでると思うんです。
なぜなら、好きなことだけやる人なんてごまんとでてくるからです。たとえば、走るのが得意だから短距離走者になるようなもので、そこで一番になるっていうのは、本当に辛い事は想像がしやすいかと思います。でも短距離走もそこそこできて、パンも早く食えるっていうと、パン食い競争で一番になれる可能性が増えます。更に他に何かできるようになると、その組み合わせだけは自分だけの得意領域になって、だんだん競争相手が減ってくる。そうして自分が活躍するための敷居が下がってきます。それはニッチな領域なんですけど、地球上には人が70億人もいて、更にインターネットで繋がって経済活動をいしている今の世界においては、どんなニッチ領域でも、自分が活躍できる領域を必要としてくれる世界があります。そうして、そのニッチ領域で活躍できると、自信がついて、更に次の領域に飛躍できる動機にもなります。そうして良い循環が回り始めるわけです。
荒木:厚労省の発表で、1年間にIT業界に3万人の大学生が参入するのですが、そのうちの64%が文系なんです。すごいですよね。20年前には考えられないことで・・・。
その文系出身者が、新しいサービスとか、貴社でやろうとしている 単に機能的なものでなく心地良いものとかを考えていくのではないかと、他のことをやってた人が、思想でITのベーシックを変えていくんじゃないでしょうか。
:その通りだと思います。
弊社には、元々プログラミングが好きなエンジニアは当然いますが、それ以外に、もともとは、アート領域が好きだったんだけど、生活のために仕事としてプログラミングをやっていたら、アートとソフトウェアをコラボレーションさせる領域が面白くなって、それを趣味にしていたら、今はそれが転職後に、弊社での仕事になっています、みたいな人もいます。
荒木:すごいなそれは
:結局お金になるところって、そういう work as life的なところになってくるんだと思うんですね。
荒木:そうですね、差別化されますよね